米スワップ金利の主成分分析
概要
今回は米国スワップレートを主成分分析で分析しました。
(毎度のことですが,内容に間違いがあるかもしれないです)
Nelson-Siegelモデルとは
Nelson-Siegelモデルの特徴は,スポットレートの構造を特定の関数型で表すというモデルです。
数式で表すと,
となります。ここで, は残存期間 のスポットレートであり, パラメータ がスポットレートの特性を説明します。 これら3つのパラメータは時間にともなって変化し,
- は,イールドカーブ全体のシフトを決定する「水準変化(Level)」
- は,イールドカーブにおける期間間の角度を決定する「傾き変化(Slope)」
- は,イールドカーブの歪みを決定する「曲率変化(Curvature)」
をそれぞれ示します。
しかし,前回同様に今回も主成分分析を用いて,イールドカーブの構造推定をおこないます。
主成分分析とは
前回は主成分分析の説明を吹っ飛ばしましたが,今回は一応メモします。
主成分分析(Principal Component Analysis)は,Nelson-Siegelモデルのような特定の関数型を仮定せずにイールドカーブの構造を説明しようという手法です *1。 式で表すと,各 年物国債の利回り は
となります。この式において, は第 主成分(スコア)を, は第 主成分に対する感応度を示す 固有ベクトルを, は定数を表します。
金融工学の分野においては通常,第一主成分 は「水準(Level)」を, 第二主成分 は「傾き(Slope)」を, 第三主成分 は「曲率(Curvature)」を表すものとして解釈されます。 そして,これらの3つの主成分からイールドカーブの構造のほぼ全てを説明できるとされています。
データの取得
前回は日本国債スポットレートが入手できず,財務省HPにある国債金利情報を使ってお茶を濁しました。 今回も米国債スポットレートがゲットできなかったので, FREDのSaint Louis連銀HPにある"Interest Rate Swaps"*2を 代替品として主成分分析をします。
取得するデータは,リーマン危機後にFRBの非伝統的金融政策が本格化してきた 2009年1月から2016年9月までの月次データです(なぜか2016年9月以降アップロードされてなかった)。 年物は1,2,3,4,5,7,10,30年物です(季節調整されていないですが,今回はスルーで)。
動きをプロットしてみると,こんな感じでした。
分析っぽいこと
前回は読み込んだデータに対してそのまま主成分分析をしましたが,標準化します。
標準化したデータをts
型に変換し,princomp
を用いて主成分分析。
#主成分分析 pca <- princomp((coredata(usy)), cor = TRUE) #相関行列で主成分分析 summary(pca)
各主成分の推計結果は,以下のとおり。
Importance of components: Comp.1 Comp.2 Comp.3 Comp.4 Comp.5 Comp.6 Comp.7 Standard deviation 2.4629209 1.3160546 0.43389943 0.110156165 0.0368838924 1.339429e-02 6.825900e-03 Proportion of Variance 0.7582474 0.2165000 0.02353359 0.001516798 0.0001700527 2.242589e-05 5.824115e-06 Cumulative Proportion 0.7582474 0.9747474 0.99828096 0.999797755 0.9999678080 9.999902e-01 9.999961e-01 Comp.8 Standard deviation 5.615685e-03 Proportion of Variance 3.941990e-06 Cumulative Proportion 1.000000e+00
第三主成分までの累積寄与度(Cumulative Propotion)は約99.8%になり, 先述したようにイールドカーブの構造のほぼ全てを第三主成分までで説明できることが示されました。
分析期間における主成分スコアの推移を見ると,以下のとおり。
2010年頃に「水準ファクター」が急上昇しているのはおそらく欧州金融危機が起きたため,リスクプレミアム上昇を反映したイールド・スプレッドの上昇を捉えているからですかね。あまりスワップ・レートに明るくないので分からないです。
(追記2018/3/2)2010~2011年あたりに「財政の崖」が意識される局面があったので,その影響もあるかもしれません。
2011年半ばあたりから急低下しているのは,オペレーション・ツイストが導入されたからでしょうか。
参考資料
Nelson and Siegel(1987), "Parsimonious Modeling of Yield Curves",http://www.math.ku.dk/~rolf/teaching/NelsonSiegel.pdf
永田・棟近(2001), 『多変量解析法入門』
- 作者: 永田靖,棟近雅彦
- 出版社/メーカー: サイエンス社
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野村総合研究所(2011), 「"Operation Twist"を巡って」, http://fis.nri.co.jp/ja-JP/knowledge/commentary/2011/20110922.html
*1:主成分分析の特徴として,
- 主成分は被説明変数の動きをとらえるために生成した人工的な変数であり,不観測な変数である。
- 回帰分析の際に起こるような,説明変数選択の任意性および恣意性を排除することができる。
- 主成分同士は直交しているため,多重共線性のような問題が起こらない
というものが挙げられます