金融ネタとか備忘録とか

社会人6年目になりました(23年4月)。個人的に勉強したことをメモしていきます(2018年3月)。

「日銀は外債購入検討すべき=浜田内閣官房参与」に寄せて

概要

  • 先日(2018年2月22日)にアベノミクスのブレーンの一人である浜田宏一氏が,「日銀の緩和手段の一つとして外債購入の検討をすすめる」という旨の発言をしました

  • 個人的に「それ結構ムリ言い過ぎじゃね?」と思ったので,整理しました

  • (本当にメモみたいな書きなぐりなので,間違いがあるかもしれません)

ニュースの内容

以下,ロイターのHPより引用*1

[東京 22日 ロイター] - 米イエール大学名誉教授の浜田宏一内閣官房参与は、黒田東彦総裁の続投後に日銀の緩和手段として外債購入を検討して欲しいとの見解を示した。ロイターの取材に答えた。

浜田氏は、過去5年間の黒田総裁による大規模な金融緩和を評価。政府の続投方針に賛意を示した。 そのうえで、2期目の黒田総裁の下での日銀は、これまで消極的だった外債購入の検討に踏み切るべきだとの考えを示した。 その理由として、最近の中国当局の動向に触れ、中国が日本の国債や円を購入しており、日銀も外債購入できるようにしたほうがよいとの考え方を示した。

外債購入とは

 まず,「外債」の定義ですが,発行する主体,発行される通貨,発行される市場のいずれかが外国(または外貨)である債券です。 たとえば,米国債などがそれにあたります。

 で,「外債購入」とは,外債を購入することを意味します。

金融政策手段として「外債購入」

 上述のインタビューのような「日銀が外債購入をすること」の政策的影響(「メリット」と言っていいのか分からない) は,主に以下の3点に整理されると思います。

1. 資金供給の手段が増える

 現在日銀はマネタリーベース拡大の手段として短期から長期にいたるまで国債を買いまくり,現状では 国債保有者内訳で4割強となっています。

 そうしたなかで「国債マーケットの流動性が著しく低下し,一定のペースで買いオペを行うことは難しいのでは」という 議論があります*2。 (まぁ,一昨年の9月に長短金利操作(イールド・カーブ・コントロール)が政策パッケージに加わったので, 「金利操作の時代に戻った」という声もありますが,それでも流動性低下の議論は依然としてホットなトピック)。

 もし外債購入が現行の買いオペの代替手段となり得るなら,資金供給の手段の一つとして考えられるでしょう。

2. 対外取引および収益に影響を与えることができる

 日銀が外債(たとえば米国債)を買うと,ドル買い円売りになりますから,ドル高円安となります。 円安は,主に2つの経路を通じて日本経済にポジティブな影響をもたらすと考えられます。

 1つ目は,実質実効為替レートが減価して純輸出が増えることです。 (i)単純な名目為替レートの減価と,(ii)日本の物価上昇率が相手国の物価上昇率より低い場合における価格差という2つの効果が, 純輸出に対してポジティブな影響を与えます。

 2つ目は,円安によるキャピタル・ゲインの効果です。 日本は巨額な対外純資産ポジション(特にドル建て)をもっているので,円安になると巨額のキャピタル・ゲイン(為替差益)を得ることができます。

3. 『2%の物価安定目標』の追い風になる

 現在日銀は「2%の物価安定目標を達成する」という大半のエコノミストが夢物語と思っているような大実験をしているわけですが, 外債を大量購入することで円安が進むと輸入品目の物価が上がる(いわゆるパススルー効果)ので,2%のインフレ率達成の追い風になるのは確かです。

 おそらく浜田氏がアベノミクスのブレーンとして外債購入を提案したのは,これが理由でしょう。

「日銀による外債購入」が難しい理由

 厳密な議論ではないですが,おおまかに「日銀による外債購入」を「日銀による為替介入」とほぼ同意というフレームで捉えると (パラレルな議論として), 金融政策手段として外債購入(≒為替介入)を導入することは,主に2点の理由から難しいと思われます。

1. 海外各国からの承認が得られない(批判をめっちゃされる)

 外債購入を導入し実行していく際には,海外各国から承認を得る必要があります。 そもそも為替レートは自国通貨と外国通貨の相対価格を表したもので,仮に日本が円売りをしても相手国が それを相殺するように円買いをすることも可能という原理的な問題もあります。

 日銀としては海外当局に対し「外債購入は日本経済がデフレから脱却するための手段のひとつである」やら, 「これは近隣窮乏策ではない」やらの言い訳をうまく展開して, 相手国から「為替操作である」という批判をスルーし,そして容認されなければなりません。 しかし,このハードルは高く,国際的な摩擦を生み出すことが予測されます。

 ここで裏付けのために,識者の意見を引用。

 まず,翁(2011)*3より引用。

より重要なのは,海外諸国に日本の為替操作が許されるかどうか,という点である。(中略)・・・ 日本だけが経済危機的な傾向が強かった2001年当時と2010年では,世界経済の状況がまったく異なる。 日本に限らず,多くの先進国が需要不足に苦しみ,輸出で需要を増やしたい,と考えている中で, 経常収支黒字の大きい日本が,人為的な円安をてこに輸出競争力を高め,デフレ脱却を目指すことに伴う 通商摩擦などのコストは,01年当時と比べ格段に大きいと考える。(中略)・・・ 2010年時点のような世界経済情勢のもとでは,日本銀行の外債購入や政府の大規模な介入で円安誘導を目指すのは 到底,容認されない,と考える。」

 また,2001年11月15日の金融政策決定会合議事録*4における 須田審議委員の発言より引用。

また介入政策との関係も見逃せない。日銀法第40条において,日銀は国の事務の取扱者として,外国為替の売買を行なうことが規定されている。 ところで,今後の為替相場の動き次第では,政府が円買い,外貨売りを行なうことが全く考えられない訳ではない。これは起こり得る事態である。 従って,このような場合に市場の混乱をどのようにして未然に防ぐのか,という点も予め詰める必要があると思う。 さらに,一旦,金融調節のための外貨,外債購入と位置付けて始めるからには,少なくとも現行の金融市場調節方針を継続する間は,為替レートが想定 以上に円安方向に進む場合であっても,淡々と外債を購入し続けるという覚悟が必要であるように思う。 なぜなら,円安が大幅に進行したことを理由として外債購入を停止すれば,日銀は外債の購入が為替レートに影響を及ぼすこと, そしてそれを意図したものであることを自ら認めることになるからである。(中略)・・・ 最後に,日銀が外債を大量に購入する場合には,近隣諸国および,米ドル建てを念頭に置くとすれば 少なくとも米国の通貨当局の理解を十分に得る必要がある。

2. 日銀法をどう解釈するかという問題

 日本銀行は1998年4月に改正された日本銀行法第1条に, 「日本銀行は,我が国の中央銀行として,銀行券を発行するとともに,通貨及び金融の調整を行うことを目的とする」 とし,第2条には 「日本銀行は,通貨及び金融の調節を行うに当たっては,物価の安定を図ることを通じて国民経済の健全な発展に資することを もって,その理念とする」 と明記しています。

 ここで問題となるのが,「はたして外債購入(≒為替介入)が,この日銀法にしたがう政策なのか」ということです。 確かに過剰に円高が進んだ場合やファンダメンタルズから大きく乖離した場合には,そのような政策パッケージが厚生改善の点から望ましいかもしれません。 しかし,それならばわざわざ日銀が政策決定しなくても,制度として実際にある財務省外国為替平衡操作としておこなうことができます。

 あと最近はエマージング諸国の通貨が軒並み強く,ファンディング通貨としてのドルも円も相対的に弱い通貨なので,特段円高に振れるようなシナリオも ないでしょうし,「わざわざ政治的な火種を起こすようなことはしなくていいのでは」と思いました。はい。

 最後に,識者の意見として白川(2008)*5より引用。

 日本については,英国と同様,政府(財務省)が介入権限を有している。政府が為替市場介入を行う場合, 日本銀行は政府の代理人として為替市場介入に係る業務を行っている。 政府は為替市場介入で取得した外貨を「外国為替資金」として保有し,その損益は外為資金特別会計経理されている。(中略)・・・

 金融政策の目的は物価の安定を通じて経済の持続的成長に貢献することであり,特定の為替レート水準を意識して 金融政策を運営することは経済の不安定化をもたらす。(中略)・・・

 (為替市場介入の効果について)第一に,外国為替市場での活発な取引を考えると, 一般的には為替市場介入で為替レートに影響を与えられるとは考えにくい。(中略)・・・

 議論の対象となるのは,当局による一般的な外貨売買の効果ではなく,例外的な状況で行われる 為替市場介入の有効性についての評価であろう。(中略)・・・為替市場介入は成功する確率が高いと判断するときにのみ行われる べきものといえる。(中略)・・・

 関係国が為替レートの水準について同一の判断に立ち,協調的に介入する場合には, 為替市場介入が有効であるケースも存在する。言い換えると,上記の条件が満たされない為替市場介入は,一般的には 効果を期待しにくい。(中略)・・・

 (為替介入政策の位置づけに対して) 第一に,オープンエコノミー・トリレンマで説明したように,自由な国際資本移動が行われる下では, 独自の金融政策を追求しながら,為替レートの固定を実現することはできない。その意味で,特定の為替レート水準の維持を 目的とした為替市場介入は行うべきではない。 第二に,市場参加者の予想がファンダメンタルズから極端に乖離する可能性は全くないとはいえない。 稀ではあるがそのような状況に陥ったと判断される場合には,為替市場介入を行うことは許容される。 第三に,その場合でも,為替市場介入は金融政策運営の基本方針と整合的なものである必要がある。

雑感・追記

国際金融の勉強をちゃんとしたことがないので,勉強しようと思いました(小並感)