銀行とPBRについてのメモ
概要
PBRについて
最近の邦銀におけるPBRについてのコメント
はじめに
こんにちは。お久しぶりです。本日はGW最終日ですが,みなさんどのようにお過ごしになられましたでしょうか。 たくさんお金を使って日本経済に貢献してくだされば,と思います()
私は帰省もせず引きこもっていたので,何もしてません。虚無。
先日証券アナリスト試験を受験したことと,最近企業価値評価の勉強を少しずつするようになったので, メモも兼ねて久しぶりの更新。完全に自己満足ですね,はい。
今回は超メジャーな指標,PBRについての記事。
PBRとは
株価純資産倍率(Price Book-Value Ratio, 以下PBR)は,株式投資の判断基準としてよく用いられる指標です。 ある株価が適正価格と比較して割安か割高かを判断するために使います。
具体的には,株価を1株当たり純資産で割ったものです。式で表すと
となります。分母のは,1株当たり純資産(Bookvalue Per Share)で期末自己資本を発行済み株式数で割ったものです*1。
一般的にこのPBRが1より大きければ割高,1より小さければ割安と言われています。 しかしPBRをもう少し分解(?)することで,割安・割高以外に興味深い使い方ができます (えらそーな事を言ってますが,おそらく知っている方がとても多いと思います。申し訳ない。)。
株価の理論価格を求めるモデルとして,残余利益モデルというものがあります。式で表すと
です。ここで は理論株価, は期首の1株当たり自己資本簿価, は株主の要求収益率です*2。
ここでよくある仮定なのですが,毎期のROEが一定,自己資本成長率が で 一定で,クリーン・サープラス関係が成立しているとすると,無限等比級数の式から次の式が得られます。
ここで,この(3)式の両辺を で割ることでPBRの関係式を得ることができます。
よって(4)の式から,PBRが1を上回るときは割高,1を下回れば割安ということ以外にも
のとき,PBRは1より大きい
のとき,PBRは1以下
という関係が得られました。すごい(小並感)
最近の銀行株とPBRについて
このような指標は異なる業界間で用いることは一般的ではなく,同業界の企業間の比較で用います。ただ今回は,業界のみに注目してみます。
業界のなかでは,銀行業界はPBRが1を下回る企業が多いです。
手元の四季報(2018/2/26現在)によると,
新生銀行 0.52
あおぞら銀行 1.12
MUFG 0.63
りそなHD 0.69
三井住友信託 0.64
三井住友 0.63
みずほ 0.56
といったところ。地銀は0.3~0.4が多いです。
これは過剰に割安であるというよりも,企業の収益力を示す が 投資家の要求収益率 を 大きく下回っていることを示唆していると思われます。
日銀がイールドカーブを押しつぶしたために鞘が取れず,死んだことを基本的に反映しているという感じ。 実際に株価チャートをみると,マイナス金利導入後に大下げです。
「鞘が取れなれない?2016年9月から,イールドカーブをスティープ化してやっただろ?安定的に貸出が増やすことはできない? 他の事業を見つけろ。がんばれ。」という戦前日本の精神論みたいなことを言う日銀こわいですね。
一応米国でのボルカールール改正等により一部邦銀等には買い材料になるかもしれないネタはありますが
地銀(あと信金)は国債・外債のデュレーションが超長期化していて脆弱性がマシマシ状態で, 利上げ局面で確実に死ぬので,何とかしろ
と日経新聞やらが最近ボロクソに言っています。死体叩き感が…。
感想と追記
PBRの記事から,いつの間にか金融政策の話になっていました。相変わらず一貫性がないです。
えー,金融緩和政策と銀行貸出は直接的に支持できる因果関係はなく,外部関係が大きいと個人的には考えています。
修論で銀行貸出を変数に入れた多変量時系列モデルで推計してみたけど,MBと銀行貸出間,長期金利と銀行貸出間に有意な関係が無かったので。
あとPCがないので携帯で書いたら,めっちゃ疲れた。もう二度と書かない。
参考文献
- 出版社/メーカー: 東洋経済新報社
- 発売日: 2018/03/16
- メディア: 雑誌
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ターム・プレミアムについて
概要
「金利の期間構造」と「ターム・プレミアム」の説明
まず金利の期間構造を,純粋期待理論という考え方に基づいて説明します*1。
仮定として市場は完全性であり,裁定機会がないものとします。 そのとき純粋期待仮説は,次の式で表すことができます。
左辺の は 年物の長期金利であり, 右辺は現在から 年後までの短期金利の予想値の平均を表しています。 すなわち,裁定取引の結果として,長期金利で運用しても,短期金利で運用しても収益率が同じであるということを, 純粋期待仮説は表しています。
次に,ターム・プレミアムを説明します。
ターム・プレミアムは(1)貸倒プレミアムと,(2)流動性プレミアムから構成されています。 (1)貸倒プレミアムは,発行主体に帰属する信用リスクや国家レベルの債務危機といったソブリン・リスクを反映したプレミアムです。 これらのリスクが大きいほど,貸倒プレミアムは大きくなります。 次に(2)流動性プレミアムは,満期が長い債券ほど短い債券と比較して簡単に現金化できないという性質に基づいたプレミアムです。 通常,長期金利は将来に対する不確実性が短期金利と比べて大きく,その対価として発生すると考えることができます。
金利の期間構造を考える場合,通常はターム・プレミアム()が次式のように(1)式の右辺に加わったものとして考えられます。
また同様に図で表すと,次のようになります。イールド・カーブにターム・プレミアム(: 年物の場合) が上乗せされています。
ターム・プレミアムの推移
式(2)から,ターム・プレミアム( 年物) を逆算することができます*2。
本来は期待値を用いて計算する必要がありますが,理論的に取得することが難しいので実際の金利を用いて計算してみます。 財務省HP「国債金利情報」からデータを取得し,例として10年物のターム・プレミアム を計算してみます。 図で表すと,以下のように(データは2010年1月から2018年2月まで)。
図から日本では非伝統的金融政策の深化にともなって,ターム・プレミアムは趨勢的に低下しているのが分かります。
参考文献
- 大村・楠美(2012),『ファイナンスの基礎』
- 作者: 大村敬一,楠美将彦
- 出版社/メーカー: 金融財政事情研究会
- 発売日: 2012/01
- メディア: 単行本
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- 福田(2013), 『金融論 市場と経済政策の有効性』
- 作者: 福田慎一
- 出版社/メーカー: 有斐閣
- 発売日: 2013/04/12
- メディア: 単行本(ソフトカバー)
- この商品を含むブログを見る
- Cochrane and Piazzesi (2008), "Decomposing the Yield Curve", http://faculty.chicagobooth.edu/john.cochrane/research/papers/interest_rate_revised.pdf
米スワップ金利の主成分分析
概要
今回は米国スワップレートを主成分分析で分析しました。
(毎度のことですが,内容に間違いがあるかもしれないです)
Nelson-Siegelモデルとは
Nelson-Siegelモデルの特徴は,スポットレートの構造を特定の関数型で表すというモデルです。
数式で表すと,
となります。ここで, は残存期間 のスポットレートであり, パラメータ がスポットレートの特性を説明します。 これら3つのパラメータは時間にともなって変化し,
- は,イールドカーブ全体のシフトを決定する「水準変化(Level)」
- は,イールドカーブにおける期間間の角度を決定する「傾き変化(Slope)」
- は,イールドカーブの歪みを決定する「曲率変化(Curvature)」
をそれぞれ示します。
しかし,前回同様に今回も主成分分析を用いて,イールドカーブの構造推定をおこないます。
主成分分析とは
前回は主成分分析の説明を吹っ飛ばしましたが,今回は一応メモします。
主成分分析(Principal Component Analysis)は,Nelson-Siegelモデルのような特定の関数型を仮定せずにイールドカーブの構造を説明しようという手法です *1。 式で表すと,各 年物国債の利回り は
となります。この式において, は第 主成分(スコア)を, は第 主成分に対する感応度を示す 固有ベクトルを, は定数を表します。
金融工学の分野においては通常,第一主成分 は「水準(Level)」を, 第二主成分 は「傾き(Slope)」を, 第三主成分 は「曲率(Curvature)」を表すものとして解釈されます。 そして,これらの3つの主成分からイールドカーブの構造のほぼ全てを説明できるとされています。
データの取得
前回は日本国債スポットレートが入手できず,財務省HPにある国債金利情報を使ってお茶を濁しました。 今回も米国債スポットレートがゲットできなかったので, FREDのSaint Louis連銀HPにある"Interest Rate Swaps"*2を 代替品として主成分分析をします。
取得するデータは,リーマン危機後にFRBの非伝統的金融政策が本格化してきた 2009年1月から2016年9月までの月次データです(なぜか2016年9月以降アップロードされてなかった)。 年物は1,2,3,4,5,7,10,30年物です(季節調整されていないですが,今回はスルーで)。
動きをプロットしてみると,こんな感じでした。
分析っぽいこと
前回は読み込んだデータに対してそのまま主成分分析をしましたが,標準化します。
標準化したデータをts
型に変換し,princomp
を用いて主成分分析。
#主成分分析 pca <- princomp((coredata(usy)), cor = TRUE) #相関行列で主成分分析 summary(pca)
各主成分の推計結果は,以下のとおり。
Importance of components: Comp.1 Comp.2 Comp.3 Comp.4 Comp.5 Comp.6 Comp.7 Standard deviation 2.4629209 1.3160546 0.43389943 0.110156165 0.0368838924 1.339429e-02 6.825900e-03 Proportion of Variance 0.7582474 0.2165000 0.02353359 0.001516798 0.0001700527 2.242589e-05 5.824115e-06 Cumulative Proportion 0.7582474 0.9747474 0.99828096 0.999797755 0.9999678080 9.999902e-01 9.999961e-01 Comp.8 Standard deviation 5.615685e-03 Proportion of Variance 3.941990e-06 Cumulative Proportion 1.000000e+00
第三主成分までの累積寄与度(Cumulative Propotion)は約99.8%になり, 先述したようにイールドカーブの構造のほぼ全てを第三主成分までで説明できることが示されました。
分析期間における主成分スコアの推移を見ると,以下のとおり。
2010年頃に「水準ファクター」が急上昇しているのはおそらく欧州金融危機が起きたため,リスクプレミアム上昇を反映したイールド・スプレッドの上昇を捉えているからですかね。あまりスワップ・レートに明るくないので分からないです。
(追記2018/3/2)2010~2011年あたりに「財政の崖」が意識される局面があったので,その影響もあるかもしれません。
2011年半ばあたりから急低下しているのは,オペレーション・ツイストが導入されたからでしょうか。
参考資料
Nelson and Siegel(1987), "Parsimonious Modeling of Yield Curves",http://www.math.ku.dk/~rolf/teaching/NelsonSiegel.pdf
永田・棟近(2001), 『多変量解析法入門』
- 作者: 永田靖,棟近雅彦
- 出版社/メーカー: サイエンス社
- 発売日: 2001/04
- メディア: 単行本
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野村総合研究所(2011), 「"Operation Twist"を巡って」, http://fis.nri.co.jp/ja-JP/knowledge/commentary/2011/20110922.html
*1:主成分分析の特徴として,
- 主成分は被説明変数の動きをとらえるために生成した人工的な変数であり,不観測な変数である。
- 回帰分析の際に起こるような,説明変数選択の任意性および恣意性を排除することができる。
- 主成分同士は直交しているため,多重共線性のような問題が起こらない
というものが挙げられます
「物価の財政理論」についてのメモ
概要
先日CMA協会による,日銀の出口戦略に関するセミナーに参加しました。
その講演内で用いられた「物価の財政理論」に興味が出たので,(自己満足ですが)メモを作りました。
理解の仕方が粗い気がしますので,解釈を間違えている可能性大ありです。
「物価の財政理論」とは
物価の財政理論(Fiscal Policy of The Price Level,以下FTPL)は,Cochrane(2001)*1 により発表された考え方であり,大まかに言うと
「政府と中央銀行の予算が統合され,名目金利が政策操作手段であるような状況において, 均衡では物価水準が財政計画によって決定される」
という理論(だそう)です。
ちなみに,最近C.シムズが日本経済への提言でFTPLを紹介したことから少し話題になりました。 このシムズの提言については,後述します。
モデル
FTPLを用いたマクロ経済政策的な議論は,政府と中央銀行を一つの「統合政府」という経済主体と見なし,その統合政府の予算制約式を求めることから始まります。
以下では,実質利子率 が要求利回り(時間選好率) に等しいような 長期均衡をイメージします。FTPLの式は長期均衡(定常均衡)において成立し,中央銀行による名目金利の選択は長期的なインフレ率の選択と同義になります。
1. 中央銀行
中央銀行はその性質上,無利子で貨幣を発行することができます。 そして,それから貨幣鋳造収入(いわゆるシニョレッジ)を得ることができます。 今期から来期にかけて得られる名目シニョレッジは,名目貨幣供給残高 に 名目金利 を乗じたもの, になります。
その名目シニョレッジを実質金利 で現時点まで割り戻し,現在の物価水準 で実質化すると, 実質シニョレッジ
を得ることができます。また,フィッシャー方程式より
と書き直すことができます。ここで, はインフレ率です。
2. 統合された政府の制約式
上述したように政府と中央銀行を一つの経済主体(「統合政府」)とみなし, 政府支出が,税収とシニョレッジでまかなわれるようなケースを想定します。
政府債務(国債)についての実質年間利子負担は,実質政府債務 に実質金利 を乗じたものになります。 統合政府の予算制約式は,
となります。ここで,
であるので,(1),(2)式から
を得ることができます。 は課税, は政府支出です。
統合政府の予算制約式(3)をみると,現在の実質国債残高 は, 将来のプライマリー・バランスの割引現在価値(右辺第1項)と,将来のシニョレッジの割引現在価値(右辺第2項)の 合計と等しくなければなりません。
FTPLとは,統合政府の予算制約式(3)を満たすように(左辺)の現在の物価水準 が決まってくる (すなわち,(3)を均衡式として考え,それに対応するようにが決まる)という考え方です。
FTPLの理論的特徴
新古典派に代表される一般均衡理論のフレームワークにかぎらず価格決定理論においては通常, 市場の需要と供給が一致するところで均衡価格を導出します。
→しかし,FTPLでは標準的なアプローチである市場の需給均衡ではなく,統合政府の予算制約式が満たされるように現在の 物価水準が決定されます。 すなわち,FTPLでは統合政府にかぎって標準的なメカニズムと大きく異なるメカニズムで,予算制約の関係が成立していることになります。
これに関しては学術的な批判もあり,Buiter(2002)*2では,
一般均衡理論のフレームワークにおいては,政府も含めたあらゆる経済主体で予算制約が満たされることを前提に意思決定をし, その結果生じる財の需給が均衡するようにあらゆる均衡価格が決まってくる。
→しかしFTPLでは,統合政府の予算制約のみが他の経済主体の予算制約と異なったメカニズムにしたがうので, 整合性がない。 よって,統合政府の予算制約が均衡するような説明力があるメカニズムが必要となる。
といった感じで批判されています。
シムズの提言について
2017年2月にノーベル経済学者のC.シムズが日本経済に対する提言として,財政出動の必要性を訴えたと一時期話題になりましたね。
ロイターの記事*3をそのままベタ貼りすると,
「[東京 1日 ロイター 2017年2月1日 / 16:13] - ノーベル経済学賞を受賞したプリンストン大学のクリストファー・シムズ教授は1日、日本経済研究センターで講演し、プラスの物価上昇を実現するには現在の財政赤字を拡大することが役立つとの「物価水準の財政理論」を前提に、将来不安により支出が萎縮している日本で必要なのは継続的な財政拡大とインフレ実現への政治的コミットだと指摘した。基礎的財政収支(プライマリーバランス:PB)黒字化に固執するとデフレから脱却できないとした。
現在安倍政権は、PB黒字化を2020年度に達成するという期限を決めているが、同教授はそれは誤りだとみている。
日本では「短期的な景気対策としての財政拡大は次の増税で穴埋めされると人々が感じて支出が抑制されているほか、高齢化による将来不安も重なっている」と指摘する。PB赤字の拡大をインフレ実現とリンクさせれば、将来にわたって財政赤字が拡大するとわかり、国債価値が下落。それによって国債保有から実物消費へのシフトが起こり、物価が上がるとの理論を展開した。
「日本で物価上昇に向けた効果を高めるためには、消費増税を先送りすることが望ましい」とし、「財政拡大とインフレがひも付られていることを国民に認識してもらう必要がある」とした。インフレ実現により、政府債務一部削減も実現できるという。
ただインフレは国民にとっては税金と同じような負担となるため、政治家はインフレを目指すとはなかなか言い出しづらい面もある。
シムズ教授は、米国では選挙を経た後にインフレ宣言を行うことで人々のインフレ期待の上昇に効果があったとも説明。「日本においてはさらに、年金生活者が増えてインフレで負担感が増すこともあり、特に政治家から言い出しにくい状況がある。国民の間からインフレを求める声が出てくることが必要だ」と指摘した。」
まあ,短く言うと「インフレ目標が達成されるまで消費増税と財政黒字目標を凍結しろ」ってことですね。
この考え方は,(3)式の右辺第1項を政策的に操作するということです。
しかし,もし政府がこのような宣言をし,それが完全に信用されるなら,インフレ目標が達成された時点で増税されるわけですから, インフレは起こらないという,いわゆる「リカードの等価定理」がテンプレみたいに成立するということですわな。
所感
FTPLの考え方がちょっと亜流すぎて,理解するのが難しかったです。
久しぶりにマクロ経済学やりました。
(追記2018/3/10)
「物価の財政理論」とはでCochrane(2001)と書きましたが, 正しくはWoodford(1995)*4により発表された考え方でした。 すみませんでした。
参考文献
マクロ経済学 新版 (New Liberal Arts Selection)
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- 作者: 齊藤誠
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Recursive Macroeconomic Theory (MIT Press)
- 作者: Lars Ljungqvist,Thomas J. Sargent
- 出版社/メーカー: The MIT Press
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「日銀は外債購入検討すべき=浜田内閣官房参与」に寄せて
概要
先日(2018年2月22日)にアベノミクスのブレーンの一人である浜田宏一氏が,「日銀の緩和手段の一つとして外債購入の検討をすすめる」という旨の発言をしました
個人的に「それ結構ムリ言い過ぎじゃね?」と思ったので,整理しました
(本当にメモみたいな書きなぐりなので,間違いがあるかもしれません)
ニュースの内容
以下,ロイターのHPより引用*1。
[東京 22日 ロイター] - 米イエール大学名誉教授の浜田宏一・内閣官房参与は、黒田東彦総裁の続投後に日銀の緩和手段として外債購入を検討して欲しいとの見解を示した。ロイターの取材に答えた。
浜田氏は、過去5年間の黒田総裁による大規模な金融緩和を評価。政府の続投方針に賛意を示した。 そのうえで、2期目の黒田総裁の下での日銀は、これまで消極的だった外債購入の検討に踏み切るべきだとの考えを示した。 その理由として、最近の中国当局の動向に触れ、中国が日本の国債や円を購入しており、日銀も外債購入できるようにしたほうがよいとの考え方を示した。
外債購入とは
まず,「外債」の定義ですが,発行する主体,発行される通貨,発行される市場のいずれかが外国(または外貨)である債券です。 たとえば,米国債などがそれにあたります。
で,「外債購入」とは,外債を購入することを意味します。
金融政策手段として「外債購入」
上述のインタビューのような「日銀が外債購入をすること」の政策的影響(「メリット」と言っていいのか分からない) は,主に以下の3点に整理されると思います。
1. 資金供給の手段が増える
現在日銀はマネタリーベース拡大の手段として短期から長期にいたるまで国債を買いまくり,現状では 国債保有者内訳で4割強となっています。
そうしたなかで「国債マーケットの流動性が著しく低下し,一定のペースで買いオペを行うことは難しいのでは」という 議論があります*2。 (まぁ,一昨年の9月に長短金利操作(イールド・カーブ・コントロール)が政策パッケージに加わったので, 「金利操作の時代に戻った」という声もありますが,それでも流動性低下の議論は依然としてホットなトピック)。
もし外債購入が現行の買いオペの代替手段となり得るなら,資金供給の手段の一つとして考えられるでしょう。
2. 対外取引および収益に影響を与えることができる
日銀が外債(たとえば米国債)を買うと,ドル買い円売りになりますから,ドル高円安となります。 円安は,主に2つの経路を通じて日本経済にポジティブな影響をもたらすと考えられます。
1つ目は,実質実効為替レートが減価して純輸出が増えることです。 (i)単純な名目為替レートの減価と,(ii)日本の物価上昇率が相手国の物価上昇率より低い場合における価格差という2つの効果が, 純輸出に対してポジティブな影響を与えます。
2つ目は,円安によるキャピタル・ゲインの効果です。 日本は巨額な対外純資産ポジション(特にドル建て)をもっているので,円安になると巨額のキャピタル・ゲイン(為替差益)を得ることができます。
3. 『2%の物価安定目標』の追い風になる
現在日銀は「2%の物価安定目標を達成する」という大半のエコノミストが夢物語と思っているような大実験をしているわけですが, 外債を大量購入することで円安が進むと輸入品目の物価が上がる(いわゆるパススルー効果)ので,2%のインフレ率達成の追い風になるのは確かです。
おそらく浜田氏がアベノミクスのブレーンとして外債購入を提案したのは,これが理由でしょう。
「日銀による外債購入」が難しい理由
厳密な議論ではないですが,おおまかに「日銀による外債購入」を「日銀による為替介入」とほぼ同意というフレームで捉えると (パラレルな議論として), 金融政策手段として外債購入(≒為替介入)を導入することは,主に2点の理由から難しいと思われます。
1. 海外各国からの承認が得られない(批判をめっちゃされる)
外債購入を導入し実行していく際には,海外各国から承認を得る必要があります。 そもそも為替レートは自国通貨と外国通貨の相対価格を表したもので,仮に日本が円売りをしても相手国が それを相殺するように円買いをすることも可能という原理的な問題もあります。
日銀としては海外当局に対し「外債購入は日本経済がデフレから脱却するための手段のひとつである」やら, 「これは近隣窮乏策ではない」やらの言い訳をうまく展開して, 相手国から「為替操作である」という批判をスルーし,そして容認されなければなりません。 しかし,このハードルは高く,国際的な摩擦を生み出すことが予測されます。
ここで裏付けのために,識者の意見を引用。
まず,翁(2011)*3より引用。
より重要なのは,海外諸国に日本の為替操作が許されるかどうか,という点である。(中略)・・・ 日本だけが経済危機的な傾向が強かった2001年当時と2010年では,世界経済の状況がまったく異なる。 日本に限らず,多くの先進国が需要不足に苦しみ,輸出で需要を増やしたい,と考えている中で, 経常収支黒字の大きい日本が,人為的な円安をてこに輸出競争力を高め,デフレ脱却を目指すことに伴う 通商摩擦などのコストは,01年当時と比べ格段に大きいと考える。(中略)・・・ 2010年時点のような世界経済情勢のもとでは,日本銀行の外債購入や政府の大規模な介入で円安誘導を目指すのは 到底,容認されない,と考える。」
また,2001年11月15日の金融政策決定会合議事録*4における 須田審議委員の発言より引用。
また介入政策との関係も見逃せない。日銀法第40条において,日銀は国の事務の取扱者として,外国為替の売買を行なうことが規定されている。 ところで,今後の為替相場の動き次第では,政府が円買い,外貨売りを行なうことが全く考えられない訳ではない。これは起こり得る事態である。 従って,このような場合に市場の混乱をどのようにして未然に防ぐのか,という点も予め詰める必要があると思う。 さらに,一旦,金融調節のための外貨,外債購入と位置付けて始めるからには,少なくとも現行の金融市場調節方針を継続する間は,為替レートが想定 以上に円安方向に進む場合であっても,淡々と外債を購入し続けるという覚悟が必要であるように思う。 なぜなら,円安が大幅に進行したことを理由として外債購入を停止すれば,日銀は外債の購入が為替レートに影響を及ぼすこと, そしてそれを意図したものであることを自ら認めることになるからである。(中略)・・・ 最後に,日銀が外債を大量に購入する場合には,近隣諸国および,米ドル建てを念頭に置くとすれば 少なくとも米国の通貨当局の理解を十分に得る必要がある。
2. 日銀法をどう解釈するかという問題
日本銀行は1998年4月に改正された日本銀行法第1条に, 「日本銀行は,我が国の中央銀行として,銀行券を発行するとともに,通貨及び金融の調整を行うことを目的とする」 とし,第2条には 「日本銀行は,通貨及び金融の調節を行うに当たっては,物価の安定を図ることを通じて国民経済の健全な発展に資することを もって,その理念とする」 と明記しています。
ここで問題となるのが,「はたして外債購入(≒為替介入)が,この日銀法にしたがう政策なのか」ということです。 確かに過剰に円高が進んだ場合やファンダメンタルズから大きく乖離した場合には,そのような政策パッケージが厚生改善の点から望ましいかもしれません。 しかし,それならばわざわざ日銀が政策決定しなくても,制度として実際にある財務省が外国為替平衡操作としておこなうことができます。
あと最近はエマージング諸国の通貨が軒並み強く,ファンディング通貨としてのドルも円も相対的に弱い通貨なので,特段円高に振れるようなシナリオも ないでしょうし,「わざわざ政治的な火種を起こすようなことはしなくていいのでは」と思いました。はい。
最後に,識者の意見として白川(2008)*5より引用。
日本については,英国と同様,政府(財務省)が介入権限を有している。政府が為替市場介入を行う場合, 日本銀行は政府の代理人として為替市場介入に係る業務を行っている。 政府は為替市場介入で取得した外貨を「外国為替資金」として保有し,その損益は外為資金特別会計で経理されている。(中略)・・・
金融政策の目的は物価の安定を通じて経済の持続的成長に貢献することであり,特定の為替レート水準を意識して 金融政策を運営することは経済の不安定化をもたらす。(中略)・・・
(為替市場介入の効果について)第一に,外国為替市場での活発な取引を考えると, 一般的には為替市場介入で為替レートに影響を与えられるとは考えにくい。(中略)・・・
議論の対象となるのは,当局による一般的な外貨売買の効果ではなく,例外的な状況で行われる 為替市場介入の有効性についての評価であろう。(中略)・・・為替市場介入は成功する確率が高いと判断するときにのみ行われる べきものといえる。(中略)・・・
関係国が為替レートの水準について同一の判断に立ち,協調的に介入する場合には, 為替市場介入が有効であるケースも存在する。言い換えると,上記の条件が満たされない為替市場介入は,一般的には 効果を期待しにくい。(中略)・・・
(為替介入政策の位置づけに対して) 第一に,オープンエコノミー・トリレンマで説明したように,自由な国際資本移動が行われる下では, 独自の金融政策を追求しながら,為替レートの固定を実現することはできない。その意味で,特定の為替レート水準の維持を 目的とした為替市場介入は行うべきではない。 第二に,市場参加者の予想がファンダメンタルズから極端に乖離する可能性は全くないとはいえない。 稀ではあるがそのような状況に陥ったと判断される場合には,為替市場介入を行うことは許容される。 第三に,その場合でも,為替市場介入は金融政策運営の基本方針と整合的なものである必要がある。
雑感・追記
国際金融の勉強をちゃんとしたことがないので,勉強しようと思いました(小並感)
*1:https://jp.reuters.com/article/hamada-boj-idJPKCN1G608W?feedType=RSS&feedName=businessNews&utm_source=dlvr.it&utm_medium=twitter
*2:古いですが,http://www.murc.jp/thinktank/economy/analysis/research/report_160819.pdf
*3:
- 作者: 翁邦雄
- 出版社/メーカー: 日本経済新聞出版社
- 発売日: 2011/06/11
- メディア: 単行本
- 購入: 6人 クリック: 83回
- この商品を含むブログ (13件) を見る
*4:https://www.boj.or.jp/mopo/mpmsche_minu/record_2001/gjrk011116a.pdf
*5:
非伝統的金融政策の波及チャネル
概要
- ”非伝統的金融政策がどのように実体経済にはたらきかけるのか”をわりと分かりやすく整理することができたので, 記事にしました。
そもそも非伝統的金融政策とは
非伝統的金融政策とは,名目金利が非常に低い水準(またはゼロ水準)であり,金利操作による伝統的な金融政策が機能しない状況において政策的効果があるとして実行されるようになった金融政策のことである。 日本では1995年6月に政策金利であった無担保コールレート・オーバーナイト物が1%を下回るようになり, 金利操作による金融緩和を行うことが困難な局面を迎えた。
そうした状況下で日本銀行は当時世界初となるゼロ金利政策を導入し,以後継続してゼロ金利制約(Zero Lower Bound;以下ZLB)を意識した政策を行ってきた。
非伝統的金融政策のパッケージにはいくつかの派生形があるが,Bernanke and Reinhart(2004) *1 はZLBにおいて政策的効果がある政策として,
- 将来の予想金利経路に働きかける政策
- 非伝統的な資産の買い入れ,
- バランスシートの拡大
の3つを挙げ整理している。
(1)将来の予想金利経路に働きかける政策は,フォワード・ガイダンス政策とも呼ばれ, 将来においてプラス領域の金利水準が望ましいと判断される局面においてもゼロ金利を継続することをコミットする政策である。 金利の期間構造理論に基づけば,短期名目金利がゼロ水準で維持される期間がより長期化すると予想されるほど長期金利に対して下押し圧力がかかる。この効果は,時間軸効果と呼ばれる。
(2)非伝統的な資産の買い入れは,長期国債や上場投資信託といったリスク性のある資産を積極的に買い入れる政策である。 長期国債の大規模な買い入れは,長期債価格の上昇を通じてイールド・カーブの構成要素の一つであるターム・プレミアムを縮小させ, より長期的な金利経路に対して緩和効果をもつことができる。 また上場投資信託の買い入れは,需給をサポートすることを通じて資産市場において価格の下支え効果をもつ。
(3)バランスシートの拡大は,ゼロ金利を維持できる水準以上にマネタリーベースといった中央銀行の負債サイドを拡大する政策である。 もし信用乗数が一定であるならばマネタリーベースの拡大はマネーストックの拡大につながり,市中の金融環境をより緩和的にすることができる。 また,バランスシートの拡大には将来においてもより緩和的な金融環境が維持されるという期待を民間経済主体に意識させるという効果(シグナル効果と呼ばれる)があり, (1)の政策と補完的にターム・プレミアムに対する下押し圧力を持続させることにつながる
波及チャネル
これらの非伝統的金融政策のパッケージは,さまざまな波及経路を通じて実体経済に影響を与える。 Mishkin(1995)*2, 白川(2008)*3は伝統的な金融政策の波及経路として,
- 金利チャネル(Interest Rate Channel)
- 資産価格チャネル(Asset Price Channel)
- 信用チャネル(Credit Channel)
- 為替チャネル(Exchange Channel)
の4点を挙げている。 同様に非伝統的金融政策もこれらの経路を通じて,実体経済に波及すると考えられる。
(1)金利チャネルとは,実質金利の低下を通じて,民間経済主体が設備投資や住宅投資,耐久消費財への支出を増加させるという経路である。実質金利は予想インフレ率だけではなく,ターム・プレミアムの変化からも影響を受ける。 また信用スプレッドの低下も金利チャネルの構成要素の一つであり,民間債務負担の縮小は民間経済主体の支出や投資を増加させる *4。
(2)資産価格チャネルとは,株価や地価といった資産価格の上昇が民間経済主体の支出を増加させるという経路である。 株価の配当割引モデルによると,株価は将来における予想配当の割引現在価値である。 ゆえに長期金利の低下は,割引率の低下を通じて株価を上昇させる。 同様に地価においても,地価は将来における予想レントの割引現在価値であるため,長期金利の低下は地価を上昇させる。 またバランスシート改善による家計の消費活動だけではなく, 企業の保有する資産価値の変化を通じて,企業の支出活動にも影響を与える。
(3)信用チャネルは,銀行セクターにおける与信行動および資金調達に影響を与えるという経路である。 経路としては主に(i)利鞘の変化にともなうものと,(ii)担保価値の変化にともなうものの2点が挙げられる。 (i)に関しては,銀行のバランスシートでは一般的に資産と比較して負債の方が平均期間が短いため, 長期金利の低下幅が短期金利の低下幅に比べて大きい場合, 長短金利差および利鞘は拡大する。 (ii)に関しては,担保価値が上昇すると借り手の倒産確率が低下し,また倒産時の回収率も増加するために, 貸借間の情報の非対称性問題は緩まり,外部金融のプレミアムは低下する。 また,信用チャネルは銀行だけに限定されず,企業間信用による資金調達に対しても影響を与える。
(4)為替チャネルは,為替レートの変化が純輸出や企業収益に影響を与えるという経路である。 他の条件が一定の下では無裁定条件より,長期金利の低下は自国通貨の為替レートの下落をもたらす。
*1:http://public.econ.duke.edu/~staff/wrkshop_papers/2008-2009%20Papers/Bernanke_Reinhart_AER_2004.pdf
*2:https://www.aeaweb.org/articles?id=10.1257/jep.9.4.3
*3:
*4:金融危機環境下において信用スプレッドの圧縮を「明確に」ねらった金融緩和政策は,信用緩和政策(credit easing)と呼ばれる。 信用緩和政策は,主に(i)政策金利の引き下げ,(ii)金融市場の安定性の確保,(iii)企業金融の円滑化の観点から行われる。 詳しくは,Bernanke(2009),Curdia and Woodford(2010)を参照。
アベノミクスの再考(理論的アプローチから)
概要
アベノミクスの理論的根拠を簡単な動学モデルを用いて考える。
(内容の信ぴょう性に対する責任は取りません。)
はじめに
最近久しぶりに名著『金融政策論議の争点 日銀批判とその反論』(2002年)を読み返してみると, 岩田一政氏(元BOJ副総裁,現日本経済研究センター代表理事)が著した第3章「デフレ・スパイラル発生の可能性」が興味深かったので, メモしたいなと記事化することにした*1。
- 作者: 小宮隆太郎,日本経済研究センター
- 出版社/メーカー: 日本経済新聞社
- 発売日: 2002/07/01
- メディア: 単行本
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今回はいわゆる動学マクロ経済学のアプローチを使って,アベノミクスの理論的根拠を考えたいと思う。
モデル
モデルは岩田氏の記事から援用。 閉鎖経済を考え,モデルが5本の方程式体系で示されると考える。
ここでは需給ギャップ(正ならインフレ・ギャップ,負ならデフレ・ギャップ), は実質自然利子率, は長期実質利子率, は物価上昇率, は目標物価上昇率, は短期市場利子率, は長期市場利子率, はリスク・プレミアムである。
(1)式は,ヴィクセルが"Interest and Prices"(1898)で示した市場金利・自然利子率と需給ギャップの関係式である。 (2)式は,物価上昇率と需給ギャップの関係式である。 (3)式は,Taylor ruleとゼロ金利下限を示す式である。 (4)式は,長期市場利子率が短期利子率とリスク・プレミアムの和であることを示す。 (5)式は,いわゆるフィッシャー方程式である。
ここで(3),(4),(5)の式を(1)に代入すると
を得る。 (6)式と(2)式の2本の動学方程式が,経済と均衡を説明する。
動学
図では,次のようになる。
はゼロ金利の境界線によって場合分けされる。 この の短期金利ゼロの境界線は,(3)より
で得ることができる。
(7)の境界線によって,テイラールールが機能する領域(正常な安定均衡解Aをもつ領域に対応)と,有効に機能しないゼロ金利の領域(不安定な鞍点均衡解Bに対応する)に 場合分けされる。
Aの領域では, 曲線 ()は
となる。
Bの領域では, 曲線 ()は
となる。
位相図と動学的分析から,2つのことがわかる。
ゼロ金利下(Bの領域)では,金融調整ができず不安定な鞍点デフレ均衡が成立し,鞍点経路から外れるとデフレ・スパイラルやインフレ・スパイラルにつながる。
デフレの均衡点における物価下落率は,
に等しい。デフレ・ギャップが存在する下で現実のデフレ率がこの均衡デフレ率を上回ると,デフレ・スパイラルが発生する(不安定な均衡Bの左下)。
アベノミクスとの関連点
為替との関係
モデルでは閉鎖経済を仮定したが,海外部門を考える。 を海外需要(すなわち,対外輸出)とすると,(2)の式は
となる。このときデフレ均衡Bは左側にシフトし,デフレ・スパイラルとなる領域は縮小する。 もし仮にアベノミクス下での円安が輸出増につながっているならば,以上のメカニズムが働いていると考えられる。
潜在成長率の引き上げ
アベノミクスの「3本の矢」の3番目は,構造改革である。 構造改革によって自然利子率(実質資本収益率)が引き上げられるならば,インフレ・ギャップは拡大し不安定な領域は縮小する。
金融・財政政策
アベノミクスの1本目の矢はQQEであり,2本目の矢は財政出動である。 を実質マネタリーベースもしくは財政支出とすると,(1)は
となる。 である場合,均衡点Aの上方シフトと均衡点Bの下方シフトにつながり, 安定領域は拡大する。
追記
*1:書評として,以下のような記事を見つけた。 d.hatena.ne.jp
*2:Andrea De Michelis, Matteo Iacoviello, "Raising an inflation target: The Japanese experience with Abenomics", European Economic Review 88 (2016), http://www.sciencedirect.com/science/article/pii/S0014292116300411